悲しみよこんにちわ

もう昔のことになるが、卒業してしまった先輩で、「俺って、実は妖精なんだ、だからお花畑に住んでるし、永遠に十七歳だ。え?妖精に見えないって?それはお前の心が濁っているからさ、ほら、背中に見えないかい、少し向こう側が透けた羽がさ」と四六時中言っている人がいた。いつも飄々とした調子でそんなことを口にしているので、実は彼は本当に妖精なのではなかろうか、と私も思っていたりした。

そんな彼が先日誕生日を迎えたので私が祝いに行くと既にパーティは始まっており、天井に吊るされた飾りには『HAPPY BIRTHDAY 21TH』と書かれていた。

「永遠に十七歳だと思ってたんだけど、二十一歳になったんだね」と私がにやついた顔で話しかけると、彼はどこか惚けた様子で、「あぁ、悪いな、俺、妖精やめたんだ」と言った。妖精をやめるということがどういうことなのかは私には判らないが、彼の少し猫背ぎみの背中に浮かぶ寂しげな風采に、なんとなく私は居たたまれない気持ちになり、おめでと、と一言だけ残して早々と帰ってしまった。

なるほど、年月というものは妖精を単なる人へと変えてしまうほどのものであったのである。十七歳だった彼は、ちょっとした隙間風に吹かれている間に二十一歳になり、私はと言えばまだ彼が十七歳の時のままなのかもしれない。だから少し寂しくなった、なんだか置いていかれた気がして。そして私もいつか二十一歳になることに対して。


そんなことを思って街灯が緩い光を照らす孤独な帰路に着くと、鋭いメール着信音が後ろポケットから鳴り響き、「なんだ帰っちゃったのかよ、もうちょっと遊んでいけばいいのに!そういえば俺、彼女出来たんだ!だから妖精はやめたの^^」というメールが届くのはまた遥か遠い先のお話。

めでたしめでたし。