スロット・ナイト・ランデブー

昨日、初めてスロット屋なるものに足を踏み入れた。

そんなことを公の場で言うと、餓鬼が粋がって大人の遊戯場に入り込んでんじゃねぇ、とお叱りを受けるかもしれないのであるが、学校の帰りに我が家へと訪れた友人に誘われ仕方なく行っただけであり、簡単に言えば付き合いというやつである。

さて、けたましいサイレンのような爆音と咽返る煙草の紫煙に私が頭をやられていると、早速友人は一つの遊戯台を選びリールを回し始めた。カラフルなパネルには『ファイナルジャグラー』と印刷されていた。手持ち無沙汰になった私が横の椅子に座り七色に輝くリールを見ていると、この台は一番目押しが難しい機種なんだだから素人は打たない方がいいし打っても良いけどかなりの損をするよね、と友人は誇らしげに語った。

なるほど、私には全く以って見ることの出来ないピエロの絵柄だとかサクランボであるとかを彼は必死で止めようとしていて、はぁスロットというものでお金を儲けるのにも苦労がいるものである、と一人感心していた。そしてどれくらい経っただろうか、仕事帰りのサラリーマンたちが世話しなくボタンを押す腕を動かし、ある人はボーナスが揃わないことに怒り台を叩き、ある人は財布と遊戯台を見比べため息を吐いていた。それでも耳を突くようなBGMは延々と鳴り響き、私は光り輝くスロットマシーンに目を奪われていた。

そんな時だ、丁度友人が、見てくれよGOGOランプが光っただろこれでボーナスが揃うって寸法だ今日も硬く一万は買ったなゲラゲラ、と嬉しそうに話しかけてきて真ん中にトリプルセブンを止め、私も釣られて笑った、そんな時。愛想笑いを浮かべた店員に肩を叩かれ、お客さん遊戯されない方が座られると他のお客様に迷惑となりますので…それと年齢を確認させていただいてもよろしいでしょうか、と言われた。私は両手を軽く挙げ、やれやれ、というようなポーズをした。

帰路の途中、耳の中でのあの独特の音たちが紡ぎだす爆音が鳴り響いていた。これは明日まで耳に残るな、と思い、もう二度とスロット屋には行くまいと誓った。どうも私は喧騒が苦手なのだ。


そういえば、その友人は他の友人たちに既に借金が十万ほどあるらしい。

スロットで負けた金はスロットで返すと息巻いているとも聞いた。

この構造は酷く一般的過ぎて逆に面白いな、と私は思った。