メイドの日常

メイド喫茶というものに行った。


私が席へ着くと可愛らしいメイドさんが私に向かって微笑みながら「おかえりなさいませご主人様♥」と言った。私はいつご主人様になったのだろうか、と少しの間思考をぐるぐるとさせていたのであるが、そうだ先日のことである、確かに私は彼女のご主人様になったではないか、という考えに帰結した。私は主人らしく「ホットミルクに砂糖を二杯とシナモンを少々いれてやってくれ」と言った。彼女は「かしこまりました」と言った。


暫くすると彼女はトレイにティーカップたちを乗せて私のところにやって来て「お待たせしましたご主人様」と言った。トレイの方を見ると砂糖とミルクの他に何やら黒っぽい粒状の物体が入った容器が乗っていたのであるが、恐らくシナモンなのであろう、と私は思った。最近ではシナモンも黒くなったのである。粒も大きい方がよいのである。


彼女は「砂糖は何杯お注ぎしましょうか」と私に訊ねた。私は先ほど二杯と言ったような記憶があったが男は小さいことは気にしない。二杯で大丈夫だよ君、と絶妙に甘い口調で私が囁くと、判りました、と彼女は応えた。少し苦笑いしていた。


「最後にシナモンを振り掛けますね」と彼女は言い、黒い物体がホットミルクに注ぎ込まれた。「最近では珍しい色のシナモンがあるのだね」「そうですね、ちょっと黒いですねー」「なるほど、黒いシナモン、いいじゃないか、情緒的で」「そうですねー」私はこの珍しい色のシナモンが振りかけられたホットミルクを飲むとシナモンだと思われた黒い物体は胡椒であった。いわゆるブラックペッパーである。あらびきである。中々いい胡椒を使っているな、と私は思った。


ここで私は突然最近覚えた言葉を思い出した。【ドジっ娘】である。【どじっこ】と読む。


友人から聞いた【ドジっ娘】たちはそれだけで萌える属性であり、彼女たちは意図しないドジをいつでも切磋琢磨として行い、常に周囲の人間に迷惑をかけるのであるが、友人から言わせて貰えばそこが良いらしいのである。どうやら守ってあげたくなるらしいのであるが、私は常々【そんな女の子がいたら殴りたくなるに決まっている】と思っていた。しかし今私は思った、【ドジっ娘】最高。もう【ドジっ娘】なしでは生きていけるか判らない。俗に言う、【ドジっ娘LOVE】である。


さらに友人から得た情報によると「【ドジっ娘】は好きな人の前だとさらにドジばかりしてしまう」らしい。つまりアレである、彼女は私を好きな可能性までも出てきたということだ。私の記憶が確かなら、彼女は私の前で既に二つのドジをしている。そして彼女は初めに私を【ご主人様】と呼称したあげく、語尾に【ハートマーク】まで付随させたではないか、そう、彼女は私を好き、否、愛しているのである。この私を。


私は得意げになり彼女に「そろそろ帰ろうと思うのであるが」と誘い文句を言うと「かしこまりました、ご主人様のお帰りです」と彼女は応えた。私は彼女の言っている意味がよく判らなかった。


一度厨房の方へと戻った彼女が持ってきたのは伝票であった。私は憤慨したが、しかしここで彼女に対する給料を払うのも紳士として当然であると思った。私は気前よく500円玉を渡した。80円が返ってきた。私は伝票と照らし合わせ納得の表情を浮かべた。


私から受け取った500円玉をレジの奥に仕舞い込みながら彼女は「今日はこれからどこかへ行くのですか」と訊ねた。「これからパスタでも食べに行こうかと思っているのだ」私はそう応えると彼女は満面の笑顔で「ぇー、いいですね♪私もたまにはパスタを食べに行きたいです♥」と言った。ふっ落ちたか、私は内心でほくそえんだ。明らかである、彼女は誘っている。チラッとネームプレートを見ると【りぉにゃん♥】と書いてあった。可愛い名前であるな、と思った。私は紳士として、漢の中の漢として言った。



「りりりりりぉにゃんも一緒にいいいい行かないかい?」



「すいませんお客様、冗談は顔だけにしてください^^」



私は一人でヨドバシ八階にある五右衛門にパスタを食べに行った。


中々美味しかった。