正岡子規「子規人生論集」

随筆文は基本的に読まないのですが、時代背景などを探る為に古いものは読みます。「子規人生論集」からは、若くして故人となられた正岡子規の文壇を一層していく気概と、彼なりの人生観を読み取ることが出来、中々悪くない。正岡子規ファンなら必読。

特に僕が唸らされたのは「養痾雑記」から


「人間は宇宙空間にある一種の調和を得て生り出でたる若干元素のかたまりなり。元は同じ酸素炭素等なれども生り出でし時の情況によりて権兵衛ともなれば太閤様ともなり乞食ともなれば大将ともなる。それを何とか思い違えけん富者その富に誇れば貧者はその貧に泣き貴人その位をふまえて高ぶれば賤人はその力足らざるを歎くことのおかしさよ。天道もこれを見かねてついに死神なるものを降しことごとく人間を殺したもう。死とは人間がその調和を失いて再び元の若干元素に帰ることなり。肉団崩れて往生せし上からは酸素に貧富もなく炭素に貴賤もなし。これを平等無差別という。」


極限から観れば人間は全て同じ素材から出来ており、人間を作り出す過程の相違で差が生じその差に皆は一喜一憂するが、所詮元素の如き貴様らが何を申すか、その体たらくが貴様らに死という調和を生み出したのである、と言ったようなもの。

この時代の背景が見える上で、単なる綺麗事を上手に説明したのは糞福沢諭吉先生なんかよりも説得力があります。シメントリーを思わせる文章構造も名文といって差し支えない。