あきば女子寮

「今日は俺の誕生日だからメイド喫茶でもおごれよ」


先輩がそう言うので仕方無しに私は先輩の言うがままのメイド喫茶へと向かった。そこは、末広町に程近い秋葉原の僻地、閑静なオフィス街が広がる路地裏に存在する【あきば女子寮】という名前の店であった。夕闇が広がる午後六時であった。


「いらっしゃい^^」


なるほどな、と思った。出迎えてくれた可愛らしい女の子はパジャマであった。そう、パジャマである。パジャマだ。確かに女子寮といえばパジャマである。パジャマでなければおかしい。私は納得した。

ふと横をみると料金表があった。30分1680円であった。告白しよう、私のお小遣いは一月に4000円である。毎月15日ににんまり顔の祖母から戴く。祖母は笑うと笑窪が出来るナイスレディだ。お小遣いを貰いに祖母の家を訪ねると、最近ではテレビ画面を見つめながらブートキャンプをしていることが多い。とにかくにんまり顔の祖母から戴くことが出来るのは4000円なのである。色々とこれでもやりくりなどをしているのであるが、すでに3000円を切っている。

私は「まずいな」と思った。


「それでは料金の説明をさせてもらいます^^」


どうやらノーマルコースは1680円なのであるが、デラックスコース(肩揉み+ハンドリフレ)であると2300円であるらしい。先輩はデラックスコースを頼んだ。オプションなるものも多々あった。例えば【往復ビンタ】である。どうやらビンタをしてくれるらしい。1000円と書いてあった。先輩は興味津々であった。先輩が先日「俺、実はエムでもあるんだよな」と誇らしげに呟いていたのを思い出した。なんと返せばいいのか判らなかったので黙っていると、「俺、実はエムでもあるんだよな」ともう一度言った。私は微笑んだ。

私は「まずいな」と思った。


それから【ふじこちゃん】なる女の子(しかしながら峰不二子には似ても似つかない)が延々と料金について説明し、オプションをたくさん薦めてくれた。先輩は神妙そうに頷いていた。そのうち壷も買わされるのではないか、と思った。先輩は、まずビンタをしてもらうと鼻を鳴らしていた。俺そういうの好きなんです、と照れながら言う先輩はなんだか輝いていた。

私は決意した。


「先輩、トイレ行ってきます」


「おう行ってこい^^」


パジャマ姿の女の子を見てニヤニヤしている先輩を遠目に見つめながら、私はゆっくりと【あきば女子寮】の門をくぐった。

明日、先輩に謝ろう、と思った。



本当にビンタされたのかどうか、私にはわからない。